日常の中でふと聞いた一言から、すぐに全体の流れや本質を理解できる人って、たまにいませんか?
「あ、この人、察しがいいな」「一言でわかってくれるから話が早い」――そんな印象を与える人は、まさに今回紹介することわざ「一を聞いて十を知る」の体現者です。
ではこの言葉、いったいどんな意味で、どんな背景があるのでしょうか。たとえ話も交えて、わかりやすく見ていきましょう。
◆ 「一を聞いて十を知る」の意味
**「一を聞いて十を知る(いちをきいてじゅうをしる)」**とは、
少しの情報から多くのことを推察し、物事の全体を理解できるほど賢いという意味です。
学びのスピードが早く、頭の回転も速い、いわゆる「飲み込みが早い人」のことをたたえるときに使います。
◆ たとえ話でイメージしてみよう
🔧たとえば、町工場の新人くん
町の小さな工場で働く新人・ユウタくん。入社したばかりで、まだ機械の扱いもおぼつかない様子。ある日、ベテランの先輩がこう言いました。
「この機械、音が少し変わったらすぐに止めてな。モーターが焼けるから」
普通なら、「えっ、どんな音?」「いつもとどう違うの?」と質問攻めにしそうなところですが、ユウタくんは黙ってうなずきます。
次の日――
「ガガッ…」
微妙に異音がした瞬間、ユウタくんはすぐに機械を止めました。調べてみると、ベアリングが外れかけていたところ。放置していたら大事故になるところでした。
先輩は驚いて言います。
「おまえ、すげえな。一言でそこまでわかるか?」
そう、ユウタくんはまさに「一を聞いて十を知る」タイプの人だったのです。
◆ 起源は『論語』にあり!
このことわざのルーツは、中国の古典『論語(ろんご)』にあります。
【子曰】「温故而知新、可以為師矣。由、誨女知之乎?知之為知之、不知為不知、是知也。由也、聞一以知十、賜也、聞一知二、可也。」
(現代語訳)
「孔子が言った。『復習して新しい知識を得る者は、教師になれる。…(中略)…弟子のユウは、一を聞いて十を知る。シは、一を聞いて二を知る。それでも十分だ。』」
ここで登場する「由(ユウ)」とは、孔子の弟子・子路(しろ)のこと。
「一を聞いて十を知る」は、孔子がこの子路の聡明さを評価した言葉に由来しているんですね。
◆ こんなときに使える!
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新人にちょっと説明しただけで、すぐに仕事を覚えた
→「まさに一を聞いて十を知るタイプだね」 -
子どもが絵本を読みながら「このあとどうなるか」言い当てた
→「一を聞いて十を知るってこういうことかも!」
相手を褒めたいときや、知性の高さをさりげなく伝えたいときにぴったりのことわざです。
◆ おわりに
「一を聞いて十を知る」という言葉には、ただの賢さだけではなく、「注意深く聞いて、深く考える力」も含まれています。
日々の会話や学びの中で、「一」から「十」へと想像を広げていく姿勢――それが、今も昔も変わらぬ賢者の姿かもしれませんね。