
「あの人、本気だったよね。まさに“全身全霊”って感じだった」
こんなふうに誰かを称えるときに、私たちはふと「全身全霊」という言葉を使います。
でも、よく考えてみると、“からだ全部”と“魂全部”って、ちょっと大げさな気もしますよね。
けれどこの言葉の本当の意味を知ると、そこには人の心を動かすほどの熱量や覚悟が込められていることがわかります。
今回は、「全身全霊」という四字熟語の意味と、その深さを物語を交えてお届けします。
ことわざの意味
読み方:ぜんしんぜんれい
意味:自分の持っているすべての力と心を注ぐこと。本気で、全力で取り組むこと。
「全身」は身体のすべて、「全霊」は魂のすべて。
つまり、「心も体も、すべてを使って一つのことに打ち込む」という意味です。
努力の中でも、本気の中の本気、それが「全身全霊」。
たとえ話
中学3年生の亮太は、足の速さには自信がなかった。
でも、運動会のリレーで、まさかのアンカーに選ばれてしまう。
チームの仲間たちは、「亮太ならやれる」と信じてバトンを繋いできた。
迎えた本番。亮太は3番手でバトンを受け取る。
前の走者とは10メートル以上の差。スタート地点では足が震えた。
でも——
「ここであきらめたら、みんなの努力がムダになる」
そう思った瞬間、彼の中で何かが変わった。
フォームも忘れ、周りも見えず、ただ前だけを見て走った。
バトンを握る手は汗で滑りそうになる。
息も絶え絶え、足も限界。
でも、ゴール目前。
亮太は全身全霊で最後の一歩を踏み出した。
結果は……わずか10cm差で2位。
だけど、先生も仲間も口をそろえて言った。
「亮太、お前、すごかったよ。全身全霊だったな」
亮太は悔し涙の中で、初めて“やり切った”達成感を知った。
起源
「全身全霊」という言葉は、中国の古典に直接出てくる言葉ではありませんが、その思想は儒教や仏教の中でよく見られます。
- 「身を尽くし、心を尽くす」という言い回しは、儒教の『礼記』や『孟子』などに見られます。
- また、仏教では「身・口・意」という三業があり、人間の行動・言葉・思考のすべてを尽くして善行に努めることを教えています。
こうした精神が日本語の中で、「全身(体を尽くす)」「全霊(魂を尽くす)」という形でまとまり、「全身全霊」という熟語として広まっていったと考えられています。
日常で使うなら? 使い方のヒント
- 「彼はこのプロジェクトに全身全霊で取り組んでいる」
- 「受験勉強は、全身全霊をかけて臨んだ」
- 「全身全霊のパフォーマンスに感動した」
「本気」「全力」を強調したい場面で使うと、説得力や感動が増します。
おわりに
誰かが全身全霊で何かに挑んでいる姿って、言葉を超えて伝わるものがありますよね。
それは成績や結果を超えて、人の心に届く力を持っています。
日々の生活の中で、「そこまでやらなくてもいいかも」と思う場面もあるかもしれません。
けれど、一度でいいから、「全身全霊」を注いでみる。
きっと、その経験はあなたの人生の中で特別なものになるはずです。
次回も、日常を少し豊かにする四字熟語を紹介していきます。
お楽しみに!