080【其の以て自ら多能とする者は、則ち難きかな】 (その もって みずから たのうとするものは、すなわち かたきかな)

「自分は何でもできる」
「一人で十分」
そう言い切れる人、あなたの周りにいませんか?

マルチなスキルを持つのは素晴らしいこと。
でも――それが時に、大きな落とし穴になることもあります。

孔子はそんな“万能タイプ”の落とし穴に、注意を促します。
「自分は多才だ」と思っている人ほど、真の成長が難しいと語るのです。

今回はその深い理由を、たとえ話や現代的な視点も交えて、やさしくひも解いていきましょう。


■ 論語の一節

「其の以て自ら多能とする者は、則ち難きかな」
(憲問〈けんもん〉篇より)


■ 意味をやさしく言うと…

  • 自ら多能とする者:自分を「何でもできる人」と思っている人

  • 難きかな:成長や向上が難しい、ということ

つまりこの言葉は、
「自分で“何でもできる”と思っている人は、それゆえに成長しづらい」
という意味になります。


■ たとえ話でイメージしてみよう

あなたの職場に、Aさんという社員がいます。
Aさんはプレゼンもできるし、資料も作れるし、プログラムも少しかじってる。
だから何でも一人でやってしまいます。

最初はすごいと思われていたけれど――

・部下に仕事を任せない
・周囲の意見を聞かない
・新しい学びにも興味を示さない

結果的に、成長が止まり、信頼も失ってしまいました。

「できることが多い」と思うと、謙虚さが失われる。
孔子が言いたいのは、まさにこうした落とし穴です。


■ 出典と背景

この章句は『論語』の「憲問篇」に記されています。
ここで孔子は、「あれもこれもできる」と自負している人に対して、真の賢者はもっと慎み深くあるべきだと警鐘を鳴らしています。

つまり、自分で自分を“万能”だと思った時点で、成長が止まってしまう――
それこそが“難しい”のだというのです。


■ 現代にどう生かせる?

  • 「自分にはまだまだ学ぶことがある」と認識し続ける

  • 他人の意見に耳を傾ける

  • 得意な分野でも「完璧ではない」と思える柔軟性を持つ

  • 周囲と協力し、チームの力を大切にする

スキルを広げることは素晴らしい。
でもそれを**「自分は完璧」と勘違いした瞬間から、進歩は止まる**のです。


■ まとめ

自信が成長の妨げになることもある。
本当に賢い人は、自分の限界を知っている。

「何でもできる」は素敵なこと。
でも、何でもできる“つもり”が、一番の敵になることもある。

孔子のこの言葉は、「謙虚に学び続ける姿勢」こそ、真に賢い人のあり方だと教えてくれているのです。