人生を歩む中で、あなたはどんな景色に心を惹かれるでしょうか?
激しく流れる川のように、自由に変化し続ける世界にワクワクする人もいれば、そびえる山のようにどっしりと構え、変わらぬ安心に魅力を感じる人もいるでしょう。
今回ご紹介する論語の一節は、そんな人の性格や生き方を「水」と「山」にたとえて語っています。自然の姿に人生の真理を重ねた、美しくも深い言葉です。
■ 論語の一節
「知者は水を楽しみ、仁者は山を楽しむ。」
(知者樂水、仁者樂山)
これは『論語』の「雍也(ようや)篇」に登場する言葉で、孔子が「知(ち)」と「仁(じん)」という徳の違いを、自然の景色になぞらえて語ったものです。
■ 意味をやさしく言うと…
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知者(ちしゃ)=知恵を持ち、合理的に物事を考えられる人
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仁者(じんしゃ)=思いやり深く、人とのつながりを大切にする人
それぞれの性格は自然の姿に似ています。
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**知者は水を好む。**水は流れ続け、あらゆる場所に対応できる柔軟さとスピードがあります。知者もまた、変化に強く、情報や状況に応じて的確に動ける人です。
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**仁者は山を好む。**山はどっしりと動かず、静かにすべてを受け入れます。仁者もまた、穏やかで安定感があり、人の心に寄り添って深いつながりを築く人です。
■ たとえ話でイメージしてみよう
ある日、二人の旅人がいました。ひとりは川辺を歩くのが大好きな人。もうひとりは山道を登るのが好きな人です。
川好きの旅人は、川の流れを観察し、「この流れは昨日と違う。岩の位置が変わってる。こう流せば水車がもっと効率よく回るはずだ」と思考を巡らせます。いつも新しい発見と工夫で、自然と知恵を結びつけて考えます。
一方、山好きの旅人は、木々や鳥のさえずりに耳を傾け、「ああ、今日もここにいる鳥たちと会えた。自然は変わらず、私を受け入れてくれる」と静かに安心し、自然と人を包み込むような優しさを感じています。
■ 背景と起源
この言葉が出てくるのは、『論語』のなかでも人間性や理想の人物像について多く語られる「雍也篇」です。
当時の中国では、儒教が大切にした「知(智)」と「仁(じん)」という徳は、それぞれに価値あるものであり、どちらが上というものではありませんでした。孔子はそれぞれの特性を自然と結びつけることで、わかりやすく、かつ心に響く教えとして残したのです。
■ 現代にどう生かせる?
この言葉は、「どちらの性格がよい・悪い」ということではなく、「自分はどちらのタイプだろう?」と考えるヒントになります。
変化に強く、情報に敏感な「知者タイプ」か。
人を包み、安定を大切にする「仁者タイプ」か。
あるいは、自分の中にどちらの側面もあると気づけたなら、それもまた人生の豊かさです。
どんな自分も、自然の一部として美しい。
孔子の言葉は、今も変わらず、私たちにやさしく問いかけてくれます。