036【怒りを遷さず、過ちを弐たびせず】(いかりをうつさず、あやまちをふたたびせず)

私たちの日常には、思わずイラッとしてしまう瞬間や、うっかりミスをしてしまうことがありますよね。

でも、その「あと」が大事なのだと教えてくれるのが、今回ご紹介する論語の一節です。

論語には、ただ「こうすべきだ」と説くのではなく、人間らしい弱さを受け止めながら、どう向き合っていくかを教えてくれる言葉がたくさんあります。

その中の一つがこの言葉――

「怒りを遷さず、過ちを弐たびせず」
(いかりをうつさず、あやまちをふたたびせず)

この言葉の意味は?

「怒りを遷さず」とは、怒りをいつまでも引きずらないこと。

「過ちを弐たびせず」とは、同じ間違いを繰り返さないこと。

つまりこの言葉は、「感情に流されず、失敗から学ぶことが大切だ」という、自己成長の秘訣を説いています。

起源と背景

この言葉は、『論語』の中の「子張第十九」に登場します。

子曰く、過ちを改めざる、是を過ちと謂う。

これは、「過ちを改めなければ、それが本当の過ちである」と孔子が弟子たちに語ったもので、そこから派生して「過ちを弐たびせず」という理想が形になっていきました。

また、「怒りを遷さず」は、君子(立派な人物)は怒りを引きずらないという理想像を表しています。

孔子は、「感情に支配されることなく、理性で物事を判断する姿勢」が人としての成長につながると考えていました。

たとえ話

ある町に、パン屋を営むタカシさんがいました。

ある日、見習いのユウタくんが、大事な注文を間違えてしまい、お客さんに迷惑をかけてしまいます。

タカシさんは最初、とても怒りました。

でも一晩寝て、次の日にはこう言います。

「ユウタ、もういいよ。次は同じ間違いをしなければいい。怒ってばかりいてもパンは焼けないからな。」

ユウタくんはその言葉に救われ、同じミスを繰り返さないようノートを取りはじめました。

それから彼はミスを減らし、やがて立派な職人に成長していきます。

このタカシさんの姿勢こそ、「怒りを遷さず、過ちを弐たびせず」の実践例です。

現代にどう活かす?

この言葉は、仕事や人間関係でとても役立ちます。

たとえば、部下や後輩がミスをしたとき、怒るのは自然なこと。

でも、その怒りを翌日まで持ち越さない。

そして、相手が同じミスをしないよう一緒に学ぶ。

そんな姿勢が、信頼や成長を生みます。

また、自分がミスをしたときも、「なんでまた…」と落ち込むのではなく、「次は繰り返さないぞ」と切り替えることが大切です。

怒りを引きずらず、ミスを糧にできる人は、人生をより良い方向へ導けるはずです。

今日のあなたの一日が、そんな「君子」への一歩になりますように。