035【君子は独りを慎む】(くんしはひとりをつつしむ)

「人が見ていないところで、あなたはどう振る舞っていますか?」

これは古代中国の賢人・孔子が私たちに投げかけている、ちょっとドキッとするような問いかけです。

論語には、他人の目がないときの行動こそが、その人の本当の人柄を映し出すといった言葉がいくつも出てきますが、今回はその代表ともいえる一句をご紹介します。

「君子は独りを慎む」とは?

この言葉は、論語の「顔淵がんえん」篇に登場します。

原文: 君子無終食之間違仁、造次必於是、顚沛必於是。
(くんしはしゅうしょくのあいだもじんをたがえず、ぞうじにもかならずこれにおり、てんぱいにもかならずこれにおる)
※ここに「君子は独りを慎む」という思想が含まれています。

つまり、「立派な人(君子)は、たとえ一人でいるときでも、道徳的なふるまい(仁)を忘れない」という意味です。

たとえ話

たとえば、あなたがコンビニで買い物をして、小銭を多く渡されたとします。

店員さんは気づいていません。

そのとき、「ラッキー!」と思ってそのまま立ち去るか、「あ、これ多いですよ」と返すか——。

ここで「君子は独りを慎む」という考えが試されます。

誰も見ていなくても、自分の中の「正しさ」に従って行動する。それが“君子”の姿なのです。

背景(起源)

古代中国では、政治の腐敗や権力者の不正も珍しくありませんでした。

そんな時代に孔子が伝えたかったのは、「表面だけの正しさではなく、内面からにじみ出る誠実さ」でした。

人目があるときは立派にふるまうけれど、誰も見ていないときには好き勝手にする。

それでは“徳”は身につかない。だからこそ、誰も見ていない「独りのとき」こそが本当の勝負なのだ——

それがこの言葉の根っこにある思想です。

最後にひとこと

SNSでは「見られている自分」を意識することが多い現代。

でも、「誰も見ていないときの自分」にこそ、人生を左右する大切な価値観が表れます。

たとえ小さな行動でも、誠実に選びたい。

それが、孔子の言う「君子への一歩」かもしれませんね。