030【自らを厚くして人を責むること薄ければ、すなわち怨み遠ざかる】(みずからをあつくしてひとをせむることうすければ、すなわちうらみとおざかる)

私たちは日々、他人の言動にイライラしたり、不満を感じたりすることがありますよね。

でもちょっと待って。

もしその原因が、自分の内側にあるとしたら……?

今回は『論語』の中から、そんな「人との摩擦」を減らすヒントになる言葉をご紹介します。

出典と意味

この言葉は、『論語』の「衛霊公えいれいこう」篇に出てくる一節です。

「自らを厚くして人を責むること薄ければ、すなわち怨み遠ざかる」
(みずからをあつくして ひとをせむることうすければ すなわちうらみとおざかる)

現代語訳すると、

「自分には厳しく、他人には寛大であれば、人からの恨みは自然と遠ざかっていく」

という意味になります。

「厚くする」は「寛大に扱う、重んじる」というニュアンスがあるので、「自分を厚くする」とはつまり「自分に責任感を持ち、しっかりと努める」ということ。

一方で「人を責むること薄し」は、「他人の欠点や失敗を厳しく責めない」ことを意味します。

たとえ話

あるところに、パン屋の店長Aさんがいました。

Aさんは朝4時に起きて、一人でパンを焼き、掃除をし、仕込みをしていました。

一緒に働く若いスタッフのBくんは、時々寝坊して遅刻したり、ミスをしてしまうこともあります。

周囲は「どうして注意しないの?」とAさんに聞きますが、Aさんはこう言いました。

「自分が100点じゃないのに、人の60点を責めたくないんだよ。自分のことをきっちりやっていたら、そのうち彼も見て学んでくれるさ。」

1年後、Bくんは見違えるほど立派なスタッフになり、今では店長の右腕です。

AさんはBくんを責めるよりも、自分を磨くことを選び、結果的に信頼と良い関係を築いたのです。

これが、論語の言葉の体現ではないでしょうか。

なぜこの言葉が生まれたのか?

この言葉が登場する「衛霊公えいれいこう」篇は、孔子が晩年に衛の国に滞在していた時期の記録です。

当時は諸侯たちの勢力争いや内部抗争が続く不安定な時代。

孔子も政治家として苦難を経験しながら、道徳的なリーダー像を模索していました。

その中で孔子が何度も繰り返したのが、「まず自分が正しくあること」。

自らが信念を持ち、他人の過ちを責めるよりも模範となること。

それこそが、長い目で見たときに最も人の心を動かすという哲学でした。

現代に活かすには?

現代社会でも、SNSで他人の言動をすぐに非難したり、職場や家庭で他人のミスを指摘する場面が増えています。

でも、それで信頼や良い関係は育つでしょうか?

むしろ、「まず自分の行動を振り返る」「相手に厳しくなる前に、自分の責任を果たす」ことを意識するだけで、人間関係は驚くほどスムーズになります。

まとめ

自分を律し、他人には寛容に。

論語のこの言葉は、まさにその大切さを教えてくれます。

人と良い関係を築きたいとき、まずは自分自身を整える。

すると、自然と相手も変わり、恨みや対立は遠ざかっていくのです。