
私たちは日々、他人の言動にイライラしたり、不満を感じたりすることがありますよね。
でもちょっと待って。
もしその原因が、自分の内側にあるとしたら……?
今回は『論語』の中から、そんな「人との摩擦」を減らすヒントになる言葉をご紹介します。
出典と意味
この言葉は、『論語』の「衛霊公」篇に出てくる一節です。
「自らを厚くして人を責むること薄ければ、すなわち怨み遠ざかる」
(みずからをあつくして ひとをせむることうすければ すなわちうらみとおざかる)
現代語訳すると、
「自分には厳しく、他人には寛大であれば、人からの恨みは自然と遠ざかっていく」
という意味になります。
「厚くする」は「寛大に扱う、重んじる」というニュアンスがあるので、「自分を厚くする」とはつまり「自分に責任感を持ち、しっかりと努める」ということ。
一方で「人を責むること薄し」は、「他人の欠点や失敗を厳しく責めない」ことを意味します。
たとえ話
あるところに、パン屋の店長Aさんがいました。
Aさんは朝4時に起きて、一人でパンを焼き、掃除をし、仕込みをしていました。
一緒に働く若いスタッフのBくんは、時々寝坊して遅刻したり、ミスをしてしまうこともあります。
周囲は「どうして注意しないの?」とAさんに聞きますが、Aさんはこう言いました。
「自分が100点じゃないのに、人の60点を責めたくないんだよ。自分のことをきっちりやっていたら、そのうち彼も見て学んでくれるさ。」
1年後、Bくんは見違えるほど立派なスタッフになり、今では店長の右腕です。
AさんはBくんを責めるよりも、自分を磨くことを選び、結果的に信頼と良い関係を築いたのです。
これが、論語の言葉の体現ではないでしょうか。
なぜこの言葉が生まれたのか?
この言葉が登場する「衛霊公」篇は、孔子が晩年に衛の国に滞在していた時期の記録です。
当時は諸侯たちの勢力争いや内部抗争が続く不安定な時代。
孔子も政治家として苦難を経験しながら、道徳的なリーダー像を模索していました。
その中で孔子が何度も繰り返したのが、「まず自分が正しくあること」。
自らが信念を持ち、他人の過ちを責めるよりも模範となること。
それこそが、長い目で見たときに最も人の心を動かすという哲学でした。
現代に活かすには?
現代社会でも、SNSで他人の言動をすぐに非難したり、職場や家庭で他人のミスを指摘する場面が増えています。
でも、それで信頼や良い関係は育つでしょうか?
むしろ、「まず自分の行動を振り返る」「相手に厳しくなる前に、自分の責任を果たす」ことを意識するだけで、人間関係は驚くほどスムーズになります。
まとめ
自分を律し、他人には寛容に。
論語のこの言葉は、まさにその大切さを教えてくれます。
人と良い関係を築きたいとき、まずは自分自身を整える。
すると、自然と相手も変わり、恨みや対立は遠ざかっていくのです。