
岡田以蔵。
「人斬り以蔵」と、恐れられた男。
けれど彼の刃は、ただの殺人ではなかった。
その一太刀には、志があった。
けれど志は、やがて彼を壊していく。
時代が、若き剣士をのみ込んだ。
土佐の片隅に生まれた、剣の天才
1838年、土佐藩の下級郷士の家に生まれる。
幼いころから剣の才を見せ、やがて江戸に出る。
千葉道場で腕を磨き、その剣は冴えわたった。
だが、剣だけでは食えなかった。
土佐では身分が全てだった。
その鬱屈が、彼を過激な志士へと変えていく。
武市瑞山と出会い、志士となる
尊王攘夷を掲げる武市半平太(瑞山)と出会い、以蔵は弟子となる。
命を懸けて、師に尽くすことを誓った。
その後、京都や江戸で密命を受け、暗殺を繰り返す。
ターゲットは、幕府に近い要人や攘夷の妨げとなる者たち。
いつしか、世間は彼を「人斬り」と呼ぶようになった。
その名は恐怖と共に広がった。
殺しの果てにあった、孤独と恐怖
斬れば斬るほど、名は上がる。
けれど、その心はむしばまれていった。
昼も夜も、殺しに追われる日々。
誰を信じればいいのか分からない。
やがて仲間からも距離を取られるようになる。
心は荒み、酒に溺れるようになった。
強さの裏に、深い孤独があった。
拷問、獄中、そして最期
尊王攘夷の志士たちが次々と捕らえられ、以蔵にも手が回る。
捕えられた彼は、過酷な拷問を受ける。
仲間を次々と自白し、自責の念に沈んでいく。
1865年、牢内で処刑。
その最期は、あまりにも哀しかった。
信じたもののために命を懸けた男の、あまりにも残酷な結末だった。
まとめ
岡田以蔵の剣は、時代の叫びだった。
彼は殺しに生き、殺しに朽ちた。
けれど、その背後には、武市瑞山への忠義と、この国を想う気持ちが確かにあった。
ただの「人斬り」ではない。
ただの「狂人」でもない。
不器用なまでに、まっすぐだった男。
時代の歪みに呑まれた、悲しき剣士。
岡田以蔵。
その名は今も、静かに語り継がれている。