あなたは「正しいことだから」と信じて、強く行動した結果、思わぬ反発やトラブルを招いた経験はありませんか?
正義感は美しいものですが、それが「過ぎる」と、かえって人を傷つけたり、自分自身を追い込んだりすることがあります。
今回は、そんな“正しさ”の取り扱いについて孔子が残した教え、「義に過ぎて行えば、害を招く」を紹介します。正しさを行動に移すときの“バランス感覚”を教えてくれる、深くて実践的な言葉です。
■ 論語の一節
「義に過ぎて行えば、害を招く。」
(義過而害也)
この言葉は『論語』の「憲問(けんもん)篇」に登場します。
孔子が弟子たちに対して「五つの過ち」について語る中で出てくる一節です。
■ 意味をやさしく言うと…
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義(ぎ):道理にかなった行い。正しさや正義感。
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過ぎる:やりすぎる、度を超える。
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害を招く:周囲との摩擦や、本人自身が苦しむ原因になる。
つまり、正しいことでも、それを「やりすぎる」と人に迷惑をかけたり、自分にとってもよくない結果になることがある、という教えです。
■ たとえ話でイメージしてみよう
ある町に、「ごみゼロ運動」に熱心な青年がいました。彼は町の誰よりも環境を大切にし、毎朝早くからごみ拾いをしていました。
ところがある日、彼は近所のおばあさんに向かって言いました。
「その分別、間違ってますよ!ルール違反です!」
おばあさんは驚き、困ったような顔をしましたが、青年は「町のためです!」と譲りません。
正しいことをしているつもりだった青年ですが、その“正しさ”があまりに強すぎたために、周囲からは「怖い」「近寄りがたい」と敬遠されるようになってしまいました。
まさに「義に過ぎて行えば、害を招く」です。
■ 背景と起源
この言葉は、孔子が人間の欠点を分析して語った場面から来ています。
『論語』「憲問篇」では、孔子が「五過(ごか)」と呼ばれる、五つの“度を超えた行い”について述べています。
その中で「義に過ぎて行えば、害を招く」は、正義感が強すぎることのリスクとして挙げられているのです。
他の「五過」には、「勇気が過ぎれば乱を招く」「率直が過ぎれば無礼になる」などもあります。
孔子は、「美徳も行きすぎれば、かえって人を傷つけることになる」と教えているのです。
■ 現代にどう生かせる?
SNSでも職場でも、「正しさ」を主張する場面はたくさんあります。
けれど、自分の正義を押しつけすぎると、相手にとっては攻撃になってしまうことも。
この言葉は、「本当にそれを“正しく”伝えるには、どんな言い方・タイミングがいいか?」という“伝え方の正しさ”も含めて考えることの大切さを教えてくれます。
■ まとめ
「正しいこと」=「良いこと」ではなく、
「正しくて、ちょうどよい」=「本当に価値のある行い」
そんなふうに、バランスを意識して生きることが、孔子の理想とする“君子”への道なのかもしれません。